2011年3月29日火曜日

阪神・淡路大震災後の精神科救護所とこころのケアセンター

現在、被災地には多くの精神科医療チームが入り、主に精神科医療ニーズに応えています。通院先をなくした精神障害者への投薬、被災した精神科病院での医療活動などは、早急に対応が必要な問題で、厚生労働省を経由した自治体からの派遣チーム、地元大学病院がコーディネートした医療チーム、精神科病院協会や関係学会からの要請に呼応した医師などが、献身的な活動を行っています。16年前の阪神・淡路大震災の際も、これらの問題に対応するために各保健所に「精神科救護所」が設置され、約3ヶ月にわたって活動しました。当時と比較して明らかなのは当初からコーディネートが行われている点です。阪神・淡路大震災の際には全体をコーディネートできたのは数週間経過してからで、しばらくは混乱した状態が続きました。また、復興期には「こころのケアセンター」という専従機関が5年間にわたり設置されましたが、さまざまな問題に直面しながら、手探りで活動を展開していかなければなりませんでした。

参考までに、阪神・淡路大震災後の状況をまとめてみましたので、ご覧下さい(PDF)

2011年3月24日木曜日

放射能災害がもたらす不安への対処

今回の大震災は原発事故という特殊な災害を引き起こしました。大震災だけでも長い回復の道のりが必要なのに、放射能という容易に社会的パニックを引き起こしてしまう事態に、今後何十年も直面していかなければならないのです。メンタルヘルスの立場から、放射能がもたらす不安をどのように理解すればいいか、防衛医科大学の重村淳先生が要約してくれました。

原子力災害が与えるメンタルヘルスへの影響
放射能が与える心への影響はとても大きいです。放射線は目に見えなくて、どのくらい被爆したかが自分で評価できません。そのため、「被曝したかも」という脅威だけで、猛烈な恐怖を起こします。過去の事例を参考に、その影響をまとめてみました。
・被曝したと思う者は、実際に被爆していなくてもそれ相応の行動をとる
避難、病院受診など
医療者の説明が入りづらい
・医療機関には、不安にかられた人々が実際の受傷者以上に受診する
医療機能のパンク
多数の精神科事例が発生しうる
・不安、身体化が前面に出やすい
身体症状と精神症状との区別が難しい
ストレス反応症状(再体験、回避、過覚醒)は比較的出にくい
・人々の反応を決めるのは情報発信者の情報の伝え方(リスクコミュニケーション)
望ましい情報の伝え方 ⇒ 正確・迅速・透明性
望ましくない情報 ⇒ デマ・集団パニックを引き起こしうる
過剰な情報 ⇒ 不安を増強させる
・もっとも効果的な治療は「情報」
情報を複数箇所から入手して情報の精度を高める
放射能汚染を抑える方法を学ぶ
科学的データに基づく安心感の回復(放射線量測定、血液検査など)

また、不安に駆られた人に、どのように接すればいいのか、当委員会の委員であり、JCO事故で地域支援を行った経験を持つ武蔵野大学小西聖子、藤森和美がまとめました。
原発事故による避難者/被災者のメンタルヘルス支援について(PDF)
子どもたちの放射線被害を心配する保護者や教育関係者の皆様へ(PDF)

2011年3月23日水曜日

外部からの支援チーム活動状況;宮城県

被災が最も大きい宮城県では、沿岸部の精神科医療機関の機能が麻痺しており、精神科医療をどう提供するかという問題に直面していました。現段階での活動状況について、宮城県精神保健福祉センターから情報をいただきましたので、ご紹介します。

・現在6チーム(厚労省のとりまとめ)が支援活動をしています。その他にも、医療救護チームの中に心のケアチームを含めたチームや、大学チームなどがいくつか活動している状況です。今回の心のケアチームとしては、被災地の既存の精神医療施設の被害が甚大だったことや被災地域が広範囲であること、現地のインフラの復旧の遅れなどをふまえて、いわゆる災害時の心のケアのニーズと合わせて、当初は精神科医療を直接提供できるようなニーズが高い状況です。そのため、自立して医療を提供できるような自己完結型の医療チーム(医師やコメディカル、薬、移動手段等)を厚労省を通じて要請しています。県でのコーディネートは障害福祉課(担当は精神保健福祉センタースタッフ)。
・現在は、被害状況をふまえて気仙沼、石巻、岩沼などに配置していますが、今後も現地のニーズに合わせて診療や避難所等へのアウトリーチを展開出来るようにしていきたいと考えています。
・現在の活動状況は、岡山県(南三陸町)、長野県(岩沼支所)、石川県(石巻市)、東京都多摩総合医療センター(気仙沼市)、長崎県(岩沼支所)、国立病院機構東尾張病院(みやぎ県南中核病院)です。これらのチームも含めて、現時点では17チーム(厚労省とりまとめ)の活動が決定しています。
・活動内容としては、避難所の巡回や既存の医療施設に常駐しての診療活動など、地域によって様々です。また、現場のレベルでは他の心のケアチームとの連携も行われているようです。

2011年3月21日月曜日

被災地外からの支援チーム、活動始まる

ガソリン不足によってアウトリーチが難しい状況は相変わらずですが、都道府県派遣のこころのケアチームが被災地に入り始めました。仙台市には兵庫県が18日からすでに現地入りし、岩手県では神奈川、静岡、和歌山、大阪の4県が22日から活動を始めます。今回の被災地は、以前から自然災害が多く発生しており、こころのケアに関して周到な準備が行われていました。活動ガイドライン、マニュアル、配布物、相談記録などが、それぞれの自治体で準備されており、それらはウェブで公開されています。実際に活動に参加される方は、派遣される地域のガイドラインなどを事前に入手し、現地では本部の指示に従う必要があります。
主な被災地のガイドラインなどは以下からご覧になれます。

仙台市 宮城県 岩手県 福島県

なお、都道府県派遣チームは被災地からの要請を厚生労働省がとりまとめ、どの自治体がどこに派遣されるかを決めています。各都道府県のチーム構成は、それぞれの精神保健主管課や精神保健福祉センターなどがコーディネートしていますので、参加される方はご自身が勤務あるいは在住されている担当部局から情報を得て下さい。

2011年3月18日金曜日

子どもと災害報道

災害後の報道は災害の実態を克明に社会に伝えるとともに、安否情報や生活関連症状などを得るための貴重な情報源です。阪神・淡路大震災の際も数ヶ月にわたって全国に報道され続けた結果、被災者の心理的影響とケアの必要性が、社会に広く理解されることに貢献しました。一方で、悲惨なシーンが繰り返し流されることによる影響について危惧する声も聞かれます。特に、子どもへの影響は早い段階から検討しておかなければならない課題です。この点に関して、アメリカ児童思春期学会の資料にしたがってガイドラインを作りました。

ニュースを見ることの影響を小さくするためのガイドライン
・子どもがどれだけの時間、ニュースなどを見ているか知っておくこと。
・報道が子どもを苦しめたり混乱させたりすることが予測されるなら、子どもとお話をするために十分な時間がとれ、静かな場所が取れることを確認しておくこと。
・子どもがニュースを見るときは一緒に見ること。
・子どもが何を聞いて何を疑問に思ったのか聞いてみること。
・必要な時にはそばにいて子どもに、安全を守ってあげると話し、子どもに簡単な言葉で安心を与えること。
・これまでになかった不眠や恐れ、夜尿、大泣き、自分の心配について話すなど、報道が子どもに恐怖や不安を与えた場合に起こる可能性のある症状を見つけること。

詳しくはこちら

子どもたちの心のケア

災害後の子どもの心理的ケアについて、武蔵野大学藤森先生がまとめてくれました。北海道南西沖地震(1993)から、この分野に取り組んでこられたパイオニアです。

被災した子どもたちにどのように対処していけばよいのでしょう?
まず、子どもたちと一緒に安全な場所に移動してください。余震が来るけれども、離れないで行動することを約束してあげてください。食べたり、飲んだり、ウンチをしたり、おしっこをする、眠るなど、当たり前のことができなくても、叱らずにいてあげてください。大人は「自分の心と身体を大事にしてあげようね」と子どもに優しく話しかけ、自分自身が子どもにとって頼りがいのある良いモデルになるのだと自覚してください。深呼吸で気持ちを落ち着かせ、背中をさする、手を握るなどのスキンシップは心を穏やかにしてくれます。次に、子どもたちと自分の感情や経験について話し合い、そのことを分かち合う機会を持ちましょう。お話をすることは、不安を少なくするのに役立ちます。また、子どもたちは「地震ごっこ」「救出遊び」など、一見すると不謹慎な遊びを行うこともあります。しかし、子どもたちは遊びを通じて、不安を克服しようとしているのです。
子どもたちの「自分たちも何か役に立ちたい」と思っています。そういう気持ちを大切にしてあげましょう。
被災した子どもにとって困難なときに大切に接してもらった体験は、その後の人生で必ず活かされます。やがてこの子どもたちが、目の前の人が困ったり悲しんだりしているときに、手を差し伸べることのできる大人に育ってくれるのです。
さらに詳しい内容はこちらから

2011年3月17日木曜日

惨事ストレス対策

災害現場に第一陣として派遣された救援チームの帰還が続いています。現地の悲惨さは報道されている以上に壮絶なもので、ベテランの専門職をもってしても大きな心理的影響を受けてしまうことが耳に入ります。何もできなかったという無力感、強い自責感にとらわれてしまう方が多いのが今回の特色のようです。こうした惨事ストレスへの対処法を簡単にまとめてみました。
【惨事ストレスの基礎知識】
1)誰もが影響を受ける可能性がある
2)惨事ストレスの影響は「異常な状況のもとでの正常な反応」である
3)多くは周囲のサポートや気分転換の方法を上手に使いながら回復する
【惨事ストレスの典型的な反応】
1)不眠、イライラ、過敏 (過覚醒)
2)被災地での状況や活動したことが現実のこととは思えない (解離)
3)活動中に目にした場面が急に脳裏によみがえる・悪夢を見る (再体験)
4)被災地を思い出させるものや人に近づかない・活動について語りたがらない (回避)
5)十分な活動が出来なかったことへの罪責感、怒り、無力感
【本人ができること】
1)休息  ⇒大切な人との時間を持ち、十分な休養を取る
2)気分転換 ⇒運動や趣味の時間を積極的に持つ
3)語る ⇒信頼できる人に体験を分かち合うことが役に立つ場合もある
⇒ 目指すは、快眠・快食・快便!
【職場ができること】
1)労い ⇒被災地に派遣された職員とその人の仕事をカバーしていた職員に対して
2)休息 ⇒身体と心を休める環境を
3)見守り ⇒休み明けの言動に注意を払い、普段の様子と大きな違いがないかを観察
4)日常を回復する ⇒いつも通りのあいさつ、さりげない声かけが安全な対応。

【専門家への相談】
1)これらの影響が原因で眠れないことがしばらく続く
2)状態が改善されず、気分の落ち込みが続き、業務に影響が出る

詳しくはこちらをご参照下さい

2011年3月16日水曜日

精神保健に関する情報が集約されているサイト

国立精神・神経医療研究センターが、災害後の精神保健活動に関するガイドラインなどを、1カ所にまとめたサイトを開設しました。22年度の研究によって作られたマニュアルも公開されています。ご参照下さい。
こちらからどうぞ 

また、日経メディカルには災害医療に関する情報を集めたリンク集が開設されており、日本内科学会や日本小児科学会がまとめたメンタルヘルスに関する情報にもアクセスできます。
こちらからどうぞ

2011年3月15日火曜日

支援チーム派遣に関する動き

 「こころのケア」に関する外部からの支援に関するコーディネートは現在、厚生労働省が取りかかっており、3月14日に各都道府県精神保健福祉担当部局 に対して、派遣可能性の聞き取りが行われました。一両日中に具体的な派遣が開始されるという情報を把握しております。しかし、現場は依然として危険な状況で、二次災害の可能性が注意喚起されています。また、各被災自治体で 被害の状況について調査が進められており、この結果を踏まえて精神科医療受給に関して要望が出されると思われます。
 岩手県精神保健福祉センター黒澤所長によれば、「自然災害後の精神科医療の需要のピークは1~2週目以降ですが、今回は、より効率的な精神医療支援の内容とそのタイミングにつ いて、『no harm(害を与えない)』を熟知している専門家の意見を聞きながら広域多発複合災害や郡部という特性に応じた支援を、あわてないで進めたいと希望しています。住民および現場資源をいかに守るかを優先したいとおもいます。したがいまして現時点で相談ケア班の派遣予定はたちま せん。」と、現時点での支援必要性についての判断が明確でないことが報告されています。これらの点をふまえて、現地のニーズに応じた慎重な対応を関係各位にお願いいたします。

2011年3月12日土曜日

大規模災害後の心理的支援の基本的事項

【はじめに】
心理的支援(こころのケア)は、今回のような大災害の場合には、とても重要な長期的支援の一つです。しかしながら、支援の方針・方向性を定めないままに複数のチームが現地に向かうと、被災地をかえって混乱させてしまうことになりかねません。また、被災地での受け入れ態勢や、計画や情報が不十分な状態で先んじて活動しようとすると、最悪の場合、被災地に害を与えかねません。災害の影響は、直後の混乱期を過ぎてからも長く続きます。心理社会的な支援活動は、地域社会に根ざし、持続可能なものであることが望ましく、これを立ち上げるには被災地の十分なアセスメントと準備が必要になります。
厚生労働省のガイドラインはこちら

【活動の基本的な態度】
災害発生後早期(直後~4週間程度)に推奨されている心理的な支援法は「サイコロジカル・ファーストエイド(PFA)」です。サイコロジカル・ファーストエイドは、治療を目的とした介入法ではありません。被災者に関わるすべての救援者、支援者にとって必要とされる基本的態度と、被災直後の苦痛を和らげるための介入方法をまとめたものです。

PFAの概要はこちら
サイコロジカル・ファーストエイド実施の手引き」全文はこちら。

会長前田正治より緊急メッセージ

東北地方太平洋沖地震に関する緊急メッセージ
被災者および会員の皆様
 今般の東北地方太平洋沖地震に被災された方々にお見舞い申し上げますとともに、不幸にしてお亡くなりになられた方々のご遺族に対して心よりお悔やみ申し上げます。今回の震災は、その規模、程度、あるいは被災地の広さにおいて、まさしく未曽有のものであり、御家族の安否が不明な方、家や仕事場を失った方々の胸中は察するに余りあります。一刻も早い救出と治療、そしてライフラインの復活を祈るばかりです。同時に、現在全力で救援に関わっておられるすべての職種の方々のご活躍を心より期待するものであります。 現在日本トラウマティックストレス学会として、今般の震災に関する特別委員会(加藤 寛委員長)を立ち上げ、早急に具体的な活動を開始します。また被災者、会員の皆様のための必要な情報を提供すべく、このHPにおいてもサービスを提供できるようにアップします。微力ではありますが、学会として全力を尽くして被災者・支援者に対するサポートを提供したいと考えます。学会員の皆様におかれましては、今後とも我々の活動に対してご支援・ご理解賜れば幸甚です。よろしくお願いいたします。
 また、きたる4月に行われる第10回大会(重村 淳大会長)においても、今般の震災を受けて一部学会内容を変更する可能性があります。詳細についてはおって通知いたしますので、あわせてご協力いただきたく存じます。

2011年3月12日
日本トラウマティックストレス学会会長
前田正治